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<教員>8月-9月のおすすめ本

(1)『霧のむこうのふしぎな町 (新装版)』 柏葉幸子 杉田比呂美 著
▶ISBN:9784061486683
▶書名:霧のむこうのふしぎな町 (新装版)
▶著者:柏葉幸子 杉田比呂美
▶出版社:講談社
▶本体価格:680円

ただただ、好きな一冊なんです。
『千と千尋の神隠し』のアイディアになった物語だとか、永遠の憧れ異世界系だとか、著者が大学生の時に書いたとか、留学すれば主人公と同じような体験ができるよ!とか、アピールポイントはいくつもあります。でもやっぱり一番に伝えたいのは、ずっと手元に置いておきたい大好きな作品、ということです。
 おとうさんから「たまには変わったところもいいだろう」とゴリ押しされて、電車を乗り降り乗り降り、周りの人?の助けも借りてどうにかこうにか6年生の上杉リナ。そこは自称魔法使いの子孫が住む町で、意地悪ばあさんが絶対的な権力を持ち「働かざる者食うべからず」がルールのピコット屋敷に夏休み中滞在することになりました。
 科学と魔法が混ざったような世界ですから個性的な住人たちは勿論のこと、人外(動物と小鬼とケンタウロスその他の総称)ともリナは交流を重ねます。彼女の常識外れな事態にも臆さず、理不尽な扱いにも素直に順応していく様には頼もしさを感じると同時に、自分も同じようにできるのか我が身を振り返っていました。
 リナが霧の谷を去る際、「世話になった人たち」から形の残る思い出を沢山もらいます。おみやげがそのまま物語の回想に繋がるので最後のイラストを見た後、清々しさと同時に夏が終わった一抹の寂しさが残ること、請け合いです。


(2)『フランス人がときめいた日本の美術館』 ソフィー・リチャ-ド 山本やよい 著
▶ISBN:9784797673210
▶書名:フランス人がときめいた日本の美術館
▶著者:ソフィー・リチャ-ド 山本やよい
▶出版社:集英社
▶本体価格:2,200円

 美術館・博物館の所蔵品は全て我が所有物だと考えると愉しい。つまり入場料や目録,音声案内なぞ,展示品の価値を思えばただ同然の管理費である。生半可な盗人は手も出せず,保管も上々。しかし如何せん美術品の数が多い。物見に出かける先を館の特徴や成り立ちから選びたいと考えていたところ,小生の胸の内を察した仏蘭西出身のソフィー・リチャード氏が10年もかけて,この書籍を作ってくださったらしい。ありがたい。
 兎角美術鑑賞は敷居が高くなりがちだが,リチャード氏は足掛かりに日本美術の遷移や基礎も端的にまとめあげてくださっている。50弱の日本の美術館と博物館の特徴の説明には,随所に丁寧な専門用語や芸術家の注釈が入り親しみやすいことこの上ない。日本文化を国際的な目線で捉え,元々は海外にて出版された書物だからこそ,ここまで痒いところに手が届く内容に仕上がったのであろう。
 文中で目に留まった品や館,芸術家の名前を自主的に調べるのもまた愉快である。なお,日本美術こそ英語検索を推奨する。難解な「染付龍濤図提重」ですら"Sometsuke Ryuto―zu Sageju (dyed ceramic picnic set with dragon design) "となり,理解が容易い。  目下の悩みがあるならば,季節毎に模様替えされる約5,700の館を存命中に余さず訪問する術が見つからないことか。若人よ,今の内ですぞ。


(3)『永い言い訳』 西川美和 著
▶ISBN:9784167906702
▶書名:永い言い訳
▶著者:西川美和
▶出版社:文藝春秋
▶本体価格:650円

 結論:パートナーの携帯(又はスマホ)は見ないに限る。
 主人公の幸夫(40代・海外俳優似の作家)は、糟糠の妻が旅行先の急なバス事故で死んだときに職場の小娘と浮気をしていたツワモノ。20年来の二人だけの家族だが葬式でも泣けず、妻の遺留品すらわからない。
 一方、同じ事故でなくなった妻の友人家族3人は母親の不在でバランスが壊れ、中学生の息子が小さい妹のために勉強や生活を犠牲にしていた。幸夫は抜けた穴を補填する役目を買って出て、友人家族と関係を深めていくのだが。
 カテゴライズの難しい小説である。軸にあるのは夫婦だが、恋愛ものというわけではない。芥川龍之介の藪の中方式で登場人物全員の視点が随所に入るため、同じ事象でも捉え方は異なっていて、読み手次第で様々な受け取り方ができる。
 曲げられない事実は、身近な人が急にいなくなってしまったこと。いくら何事もなく日々が過ぎて行っても消えた存在の影響は計り知れないものがあり、それによって生まれる機微を鮮明に感じられるところに、この小説の神髄がある。


(4)『節約・貯蓄・投資の前に 今さら聞けないお金の超基本』 泉美智子 坂本綾子 著
▶ISBN:9784023332201
▶書名:節約・貯蓄・投資の前に 今さら聞けないお金の超基本
▶著者:泉美智子 坂本綾子
▶出版社:朝日新聞出版
▶本体価格:1,200円

 かねが人生のすべてではないが / 有れば便利
 / 無いと不便です / 便利のほうがいいなぁ
 by 相田 みつを
 何故か余り良いイメージのないお金の話題ですが,一説には,徳川家康が士農工商の身分制度を作った際に商人はお金を持っているが卑しい存在だ,と言う価値観を定着させたからだと言います。大名の反乱を起こさせないために,政略として武士にお金ではなくプライドを持たせたとか。
 しかし戦国時代から約400年,人生100年が新時代の合言葉になり「資産」の形も複雑化してきました。この本は現在の社会の仕組みを踏まえながら,多くの人が直面する局面(例えば車や家の購入・結婚・育児・老後)に応じたお金の役割が説明されていて,イラストも沢山あって読みやすいものです。学生さんが読むと,一生の内に必要なお金のイメージと対策ができ,例えば職場の“手当”の存在は就職先を探す際の参考にもなります。社会人にとっては既に向かい合っている貯蓄,納税,散財,運用,年金等の判断に役立ちます。生涯賃金の試算や一か月の支出といった自分だけのマネープランを考えるページもあるので,知識を身に着けるだけではなく生活で実践できる,まさに一石二鳥の本になっています。
 知らないままで,皆さまが悪い人のカモネギ化するのを防ぎたい一心で,おすすめします。


(5)『あしながおじさん』 アリス・ジ-ン・ウェブスタ著 土屋京子訳
▶ISBN:9784334753139
▶書名:あしながおじさん
▶著者:アリス・ジ-ン・ウェブスタ- 土屋京子
▶出版社:光文社
▶本体価格:780円

 きっと誰しもが名前は聞いたことがある,記憶の隅に留めておきたい名作。本書を愛してやまない土屋京子さんが真摯に取り組んだ新訳によって,約100年前のアメリカの大学をメイン舞台に主人公の4年間と少しが魅力的に綴られる。
 孤児であるジェルーシャ・アボットは資産家スミス氏(偽名)に多額の奨学金をもらって大学に通わせてもらう代わりに,月一で勉学内容や学生生活の報告手紙を義務付けられた。陽気な性質のアボット嬢はスミス氏の愛称を勝手に『Daddy long-legs:ガガンボ:手足が長いから』とし,返事をくれないDaddyにせっせと手紙を送る。月一報告が増えたり0になったり,喧嘩したり感謝感激しながら,物語は手紙を通した彼女の一人称で進行する。  ジュディ(旧名ジェルーシャ)に感情移入しながら読んだのは過去のこと,いつしかあしながおじさん側の立場になった。援助に甘え過ぎず,明るくWork hard,play hard.を体現しながら作家と言う目標に向かって堅実に歩みを進める大学生は,今の時代から見ても確かに格好良い。
追伸
大学間交換留学中の国際部国際学生交流課への定期報告メールがジュディのお手紙くらいユニークでも,大歓迎です。


▼ 2019年8月-9月の担当教員 ▼
国際部 国際学生交流課
国際部 国際学生交流課プロフィール
大阪大学の国際化を担う要として学生のインバウンド(受入れ)とアウトバウンド(派遣)を一手に担うのが我々、国際部国際学生交流課です。
KOANにおける[海外留学]項目の発信源の殆どが、我らがオフィス吹田キャンパスのICホール1階だったりします。実は。
職員の半数以上が長期海外滞在経験有りのフランクな雰囲気の中、阪大生の国際交流を活性化するために、日々息が上がりながらも一意奮闘しています。


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