TOP > 書籍・教科書・資格> 今月の書籍ショップ> ブックコレクション

<教員>10-11月のおすすめ本

(1)知能はどこから生まれるのか? 大須賀公一 著
▶ISBN:9784764905818
▶出版社:近代科学社
▶本体価格:2,300円

大阪大学教授による知的探求の冒険記!

 

 副題は【ムカデロボットと探す「隠れた脳」】で、表紙絵がちょっと怖いかもしれませんが、これはムカデ型のロボットのイラストなので怖がらずに本を開いて思考の足跡をたどってみよう。どうやら、知能の根幹には運動制御があるようなので、本書でまずとりあげる生き物の、歩く・泳ぐ・避けて前に進む・転ばない、という活動が微小脳もしくは脳神経系をもたなくても可能なことを確認することから、知能の源泉を探っていく旅が始まります。講義や学術論文であれば制御工学という数式ごりごりの講義が展開されるのであろうがそういったことをなしに、書名の問いを“複雑な数式をもとに設計された複雑な制御則を解く”ことが偉いばかりではない気づきや、脳(CPU)だけでは知性を持つようには振る舞えないことを追体験しながら、ブレインレスロボット研究が教えてくれることにたどり着きます。
 知的好奇心を追いかけながらも、教科書を書き、学会をとりまとめ、産学共創に忙しい、阪大教授ど真ん中の先生の頭ん中をたどっていく一冊であると思います。QRコードを読み込むと動画が見まれます、難しいこと抜きにおもしろいを感じさせてくれますよ。


(2) アリエナイ工作事典 薬理凶室 著
▶ISBN:9784866732497
▶出版社:三才ブックス
▶本体価格:2,000円

小中高の学校図書館ならおいてくれなさそうな、アブナイ工作の手ほどきをあなたに。

 

 道具をつかう動物はいるが、道具を使って道具を作る動物は人間だけの特徴である、すなわち工作は高尚な営みであることは間違いなく、とはいえ工作はおもしろいものです。のような前書きでははじまるのですが、ふつうの工作本とは一線を画す内容が目白押し。100均グッズ魔改造から始まって、爆音・高電圧・圧縮・真空・遠心分離・刃物といった、ラボではよくある条件?を身近な素材で再現していきます。その先には、どこの御家庭にもある3Dプリンター・旋盤を活用する超本格的エクストリーム工作へ導く、たぐいまれな希少本です。オンラインばかりで実物に触れる機会が少なくなって退化してない?この本を読んで試してみよう、ただし自己責任です、DIYの基本です。本書の中にも、推奨された使い方ではないので自己責任、のような注意書きがあちこちにあります。
 4章がまるまる【3Dプリンター実践学】となっており、アリエナイ理科シリーズをお持ちの方も、必見です。インフィルを限界まであげて真空対応させる技が透明部品を作る参考になりますよ。


(3)世界初をつくり続ける東大教授の「自分の壁」を越える授業 生田幸士 著
▶ISBN:9784478024485
▶出版社:ダイヤモンド社
▶本体価格:1,500円

「みんなと違う」で突き抜けよう!


 筆者は医用ロボットを開拓した生田幸士先生で、阪大の金属材料工学科(工学部)と生物工学科(基礎工+院)出身です。まず、ちょっと身近に感じて頂いたところで、そんな先生が、東大で展開した名物授業(特別講義)が、バカゼミとたまご落としコンテスト、おおらかな名前ではありませんね。その内幕を本書で披露するとともに、あたらしい分野を切り開くぐらいの突き抜けた、(最大限の敬意を込めて)「バカ」育成のポイントが書かれてあります。創造という営みを考える上で大いに参考になるとともに、これからの学びの意味を問うきっかけになるはずです。積み上げがある人ほど本書を読むのはなかなかに抵抗があるかもしれませんが、ご一読いただき、今なにがこの大学キャンパスでできそうか、一緒に考えてみませんか?若い人には同先生近著の【世界初は「バカ」がつくる】もおススメしておきます。


(4)ともにがんばりましょう 塩田武士 著
▶ISBN:9784062936033
▶出版社:講談社
▶本体価格:740円

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。(日本国憲法第28条)

 

 キャリア・労働そのものをとりあげたかったのだが、その辺は生協店頭・図書館での書棚陳列に譲るとして、「アラバマ州のamazonの物流倉庫で行われた、労働組合結成をめぐる投票の否決結果は破棄されるべきだと全米労働関係委員会の審査官は勧告の中で…」というニュースが入ってきたこともあり、労働組合をとりあげるにして本書を推す。本書の物語は在阪新聞社の労働組合を舞台とするフィクションであるが、作者の塩田武士氏も新聞社在籍時代に労働組合執行部の経験があるという。文庫本380頁におよぶ、若手社員が労働組合の執行委員に抜擢されてからのドタバタと、深夜労働手当引き下げ案を巡る労働組合対経営陣の、終わりの見えない団体交渉【団交】が膨大な会話によって紡がれていく。主人公の所属する記者職域(編集局)だけでなく印刷職場、技術局、支局、販売があり、交渉の内容を積み上げていき到達点はどこか、刮目して読みすすめていただきたい。はたらくことをとりあげた本としては小関智弘著作の「働くことは生きること」なども参照されたい。


(5)ニューヨーク・ニューヨーク第1巻 羅川真里茂 著
▶ISBN:9784592884286
▶出版社:白泉社
▶本体価格:667円

 大阪大学Diversity&inclusion強化期間(2021年7月~10月)にそえて

 

 本書は漫画ですが、LGBTの話をするとき時間があれば必ず披露するようにしているので(2巻解説の伊藤悟先生に紹介してもらったからなのですが)SOGI(sexual orientation and gender identity)を考えるきっかけにしていただきたくここに紹介します。

 物語は、舞台はニューヨーク、ケイン・ウォーカーは周囲に同性愛者であることを隠すため職場から離れたマンハッタンに繰り出して、ある夜、理想的な容姿の美しい青年、メル・フレデリクスに出会った「ジーザス、運命だ…」からはじまります。ゲイをテーマおいてシリアスな展開がつづきます。BLを読み慣れていてもかなりヘビーだと思われ、心して手に取っていただければと思います。

 原稿初出は1995年から98年にかけてであり、LGBTの表現に衝撃を受けた覚えがあり、なにより今に通用する表現であったことにも内省があり、ついでにアメリカのスラングなんかもこの漫画で覚えたと思う。

 ストーリーの終わり前に(2巻ほぼ最後)「片側からしか物を見れない目は記者向きじゃない」というセリフがあり、この言葉が刺さります。この言葉をいう人の立場も、その場面も。ぜひじっくりと最初から最後までお目通しいただきたい作品です。


▼ 2021年10-11月の担当教員 ▼
三宅陽治 先生
三宅陽治 先生プロフィール

創造工学センター技術職員
加工学・技術教育を学んだのち、鳥取・岡山で定時制を含む公立高校教諭を経験して現職。ものづくり(特に試作:ラピッドプロトタイピング)から、ものこわし(廃棄・再生)まで一気通貫で担当、適正技術・テクノロジー教育・STREAM教育・労働者教育も守備範囲。教職に入って16年、ずっと「(地球の裏側の)講義がストリーミングで受けられる時代に学校に来てすべきことは何か。ものづくりはそのひとつ」と訴え実践してきました、若い人の柔軟な発想で、新しい“なにか”をつくるの手伝います! インカレではウエイトリフティング競技審判・役員を担当(阪大には選手いませんが…)



● Coop Internship Program