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<教員>11月のおすすめ本

(1)『マンガは哲学する』 永井均著
▶ISBN:9784006031831
▶書名:マンガは哲学する
▶著者:永井均著 
▶出版社:岩波書店
▶本体価格:920円

——人文系のセンスを磨く夏休みに最適の一冊——
 人間は何のために生きているのだろうか。世界はなぜ何のために存在するのだろうか。こういう疑問をもったことのある人は、自分でも気づかないうちに「哲学」の入り口に近づいている。
本書は、マンガ作品に哲学への入り口が豊富に隠れていることを教えてくれる良書だ。この本を手に取れば、藤子・F・不二雄や吉田戦車、永井豪などマンガの名作に触れながら、人間存在の不思議について考えていくことができる。大学1年生の夏休みは、本書と本書で論じられるマンガ作品たちを読み込むだけでも、十分に有意義な教養の時間となると思う。
私の授業ではマンガやアニメをよく素材として取り上げる。それにはちゃんと学問的根拠もある。私たちはなぜその物語に惹かれるのか。個人の意識が抱える問題から遡行して、社会のもつ動態的な構造へとアプローチし、今後の運命を考えることができるのだ。アニメやマンガを好きで観るだけでもいい。でもそこから人間や社会のことを「考えてみたい」と思ったら、本書が最初の一歩になるだろう。


(2)『伝奇集』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス 著
▶ISBN:9784003279212
▶書名:伝奇集
▶著者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス著  鼓直訳 
▶出版社:岩波書店
▶本体価格:780円

——不思議な文学に浸りたい秋の夜のためにこの一冊はある——
 マンガでもアニメでもライトノベルでも、古今東西のSF、ファンタジー、ミステリ系の「ネタ」が大量複製されている日本のことだから、学生諸君もたいがいの不思議ネタや技巧的プロットには驚くまい。だがサブカル系物語の「ネタ」には、ふつうオチがついている。オチがつくことで読み手を落ち着かせる。感情的なカタルシス経験によって明日を生きる元気を与える。それが商品としての物語のもつ魅力である。
 ボルヘスはちがう。彼の描く物語には安心できるオチがない。読み、そしてよく考えると、われわれの人生にも本当は安心できるオチはないことに気付く。つまりそこが「文学」なのだ。この岩波文庫『伝奇集』には一七本の短編が収められている。一編一編はごく短い。そのいずれもが描くのは、人間存在の「謎」である。大長編作品に展開できるような「ネタ」を、喩えて言うならばエッシャーの絵のように、一目で見渡せるキャンバスにおさめて描ききる。そこにシビれる、あこがれる。


(3)『バトル・ロワイアル 上』 高見広春 著
▶ISBN:9784344402706
▶書名:バトル・ロワイアル 上
▶著者:高見広春訳 
▶出版社:幻冬舎
▶本体価格:660円

——直球なのか、変化球なのか。たじろぐほどピュアな革命の魂——
 一九九九年、かつてセカイの終わりが来ると予言された二〇世紀最後の年にこの本を読んだときは、たまげた。そしてしまった、その手があったか、と心底悔しくなった。本当に面白い小説を読むと悔しくなる。なぜなら私も高校生くらいまで作家になりたいと本気で思っていたことがあるからだ。
 同じクラスの中学生同士が無人島で殺しあうというぶっ飛んだ設定によっておおいに物議をかもし、国会でも言及されたという問題の書だが、一気に読めるエンタメ構成のさなかに、びっくりするほど愚直で爽やかな革命の志に出くわし、そのギャップに驚くことになる。この本がベストセラーになり、巨匠深作欣二の遺作として映画化されたことにより、いわゆる「デス・ゲーム」系の作品は世にあふれた。しかしオリジナルを超えることはできない。この作品が本当にすごいのは、見事に日本社会の構造と人生の縮図を切り取って見せた点にある。この設定でありながら、最高のジュブナイルであり、若者たちへの道徳の書であるとすら言える。高見広春、とんでもない力量である。
 二一世紀の『君たちはどう生きるか』がここにある。


(4)『〈自閉症学〉のすすめ』 野尻英一  高瀬堅吉  松本卓也 著
▶ISBN:9784623086481
▶書名:〈自閉症学〉のすすめ
▶著者:野尻英一  高瀬堅吉  松本卓也 著
▶出版社:ミネルヴァ書房
▶本体価格:2,000円

 ——社会がわかる、自分がわかる——
「自閉症」という言葉を聞いたことのある人は多いと思う。けれども自分とは関係ないと思っている人も多いと思う。それがまちがいで、自閉症はじつは誰しもと関係のあることだということが、本書を読むとわかる。
 この本は、心理学、精神分析、哲学、文化人類学、社会学、法律、文学、生物学、認知科学、政治学、教育学、言語学、芸術論、数学・物理学、当事者研究など一〇以上もの多彩な分野の研究者が集まり、自閉症について学際的なアプローチの束としての「自閉症学」を提案する野心的な試みを行なったものだ。自閉症を理解することが、現代社会を理解し、自分自身を理解することになるというコンセプトで編まれている。
 一線級の研究者が各分野からどのように自閉症を理解できるのかを紹介すると同時に、各分野がどういう学問であるかがわかるように書かれている。新聞にも取り上げられ、一般にも売れているが、もともとは大学一年生のための一般教養の教科書を目指して作られた。ぜひ阪大生にも手に取ってほしい。


(5)『進撃の巨人 1』 諌山創著
▶ISBN:9784063842760
▶書名:進撃の巨人 1
▶著者:諌山創著
▶出版社:講談社
▶本体価格:440円

——恐怖し、思考せよ——
 F・ジェイムソンは、文化表象を「現実における解決不可能な矛盾に対する想像的な解決」として解析することができると述べている。つまり私たちがどのような物語を生み出すかを見ることによって、私たちが社会構造の深層レベルでどのような矛盾を経験しているかを捉えることができるというわけだ。本作は、七〇年代後の日本のサブカルチャー作品のエッセンスを凝縮させた総集編という趣がある。圧倒的な「恐怖」を前にして、主人公たちは強くなること、生きることの意味を考えることを、余儀なくされる。と同時に、それは、「記憶」の問題でもある。私たちはかつて大事なことを知っていたが、それを忘れてしまったのだ。この物語タイプは、現代日本の文化表象に溢れている。私たちはなぜ「記憶」の問題にとりつかれるのだろうか。そこには、社会歴史的な構造の必然があるということを私は考えていて、それを哲学と社会理論を用いて解き明かそうとしている。理論さえあれば、最も通俗的な作品こそが最も良質なアカデミズムへの入り口になる。本書はその一例。だから私たちは、読み、恐怖し、思考しなければならないのだ。


▼ 2019年11月の担当教員 ▼
野尻 英一 先生
野尻 英一先生プロフィール
人間科学研究科・比較文明学研究室
1970年生。専門は哲学・倫理学。特にヘーゲルが専門だが、狭義の哲学研究には留まらず、哲学、精神分析、社会理論、表象文化論を組み合わせた現代人間論を構築、サブカル素材から文明の構造にまで話を広げる授業を得意とする。アーサー・C・クラーク『都市と星』、リドリー・スコット『ブレードランナー』などが好き。弟は映画監督(野尻克己)。趣味は、ドライブ、バスケ、ライフル射撃。学生時代に早稲田大学で射撃競技に打ち込んだ。来年東京五輪では審査役員も務める。そうしたつながりで阪大射撃部と対決させていただくことに。


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