TOP > 書籍・教科書・資格> 今月の書籍ショップ> ブックコレクション

<教員>5月のおすすめ本

(1)『にじ色の本棚』 原ミナ汰・土肥いつき 著
▶ISBN:9784380150067
▶署名:にじ色の本棚
▶著者:原ミナ汰・土肥いつき
▶出版社:三一書房
▶本体価格:1,700円
LGBT、セクシュアルマイノリティ、多様性…ということばも、インターネットもスマートフォンもない大学生時代、わたしはフロイトの『性欲論(性理論)』やフーコーの『同性愛と生存の美学』を古本屋でみつけ、ドキドキしながら手にとり、かじりつくようにして読んだ。'90年代は、伏見憲明、掛札悠子、虎井まさ衛、橋本秀雄など、当事者によって書かれた本が出されるたびに揺り動かされた。それから数十年を経たいま、自伝から啓発書・研究書まで、どれを手にとってよいか迷うほど多くの本が出版されている。本書はノンフィクション、人文学、医療、法、教育などさまざまな分野を包括するブックガイドであるとともに、一冊一冊の本にであうことで生き延びてきた多様な執筆者ひとりひとりが綴る生存と対話の記録でもある。急速な変化とともに過去が忘れられていくこの社会にあって、当事者・支援者の世代間のバトンリレーとして読んでも興味深い。LGBT以外のマイノリティについてのコラムや映画紹介も充実している。ひとつ残念なのは、バイセクシュアルに関する本がほとんどないこと。本書では紹介されていないが参考までに、フリッツ・クラインの『バイセクシュアルという生き方』(現代書館、1997年)は、やや古い専門書ではあるが、日本語で読める貴重な研究書としてあげておきたい。

(2)『クィア・セクソロジー』 中村美亜 著
▶ISBN:9784755401916
▶署名:クィア・セクソロジー
▶著者:中村美亜
▶出版社:インパクト出版会
▶本体価格:1,800円
あなたはじぶんのからだについて、どれだけ知っていますか? 性をタブー視する伝統的な家族・社会観が根強く残る日本に生まれ、からだと性の健康と権利に関する教育にふれる機会をうばわれ、じぶんの性に向きあうことも許されないなか、「LGBT」という他者を理解せよ、といわれて戸惑うのは無理もない。本書は、愛さえあれば何も知らなくてもセックスもうまくいく、という性の思いこみをほぐし、マイノリティ/マジョリティにかかわらず、避妊・中絶、性暴力、性感染症といった、本来だれもが無関係ではありえず当事者になりうる性の健康の問題から、セクシュアリティ、ジェンダーそれぞれの多様性と交錯を考えるクィア理論までを、わかりやすく論じていく。性的指向、 性同一性(性自認)は近年知られるようになった概念だが、どちらも女/男という二元的なカテゴリーを基準にしている。例えば、性的指向が同性と聞くと、同性ならだれでもいいと誤解しがち。でも「女が好き」というより「好きな人が女」というほうが実情を言い当てているのではないか、などなど。また著者は、性について生物・心理・社会学を横断して学際的に研究するセクソロジーの立場から、「男の脳/女の脳」といった性差に関する研究が、異性愛規範を素朴に前提にしていることに警鐘を鳴らす。クィア研究やトランスジェンダー研究についての情報も豊富で、参考文献表も充実した役に立つ一冊 。

(3)『同性愛と異性愛』 風間孝 河口和也 著
▶ISBN:9784004312352
▶署名:同性愛と異性愛
▶著者:風間孝 河口和也
▶出版社:岩波書店
▶本体価格:780円
同性愛ということばがつくられたのは19世紀末。本書でも描かれるように、近代国家の形成過程のなかでドイツ、イギリス、アメリカでは同性間の性行為は犯罪とみなされ、生殖を目的としない性行為とともに処罰の対象とされるのに抗って、同性愛は異性愛とは異なる性の多様性のひとつである、と性科学者たちが人権擁護を行なった。しかし20世紀になると、医師による「懲罰ではなく治療を」という病理化の論理が逆手にとられ、異常な病気として治療や矯正を受けさせられたり、社会秩序を乱す者として公職から追放されたりしてきた。同性愛に対して寛容だという通説に反して日本社会でも差別は根深い。著者たちは1990年代に同性愛者団体が施設利用を拒否された事件をめぐって、日本ではじめて法廷で同性愛差別を問うた。利用拒否の理由としてあげられた宿泊施設での男女別室ルールが、同性愛が存在しないことを前提にした異性愛規範のうえに成り立っていること、性同一性障害を理由とした戸籍上の性別変更の要件のひとつ、「婚姻をしていないこと」が同性婚を否認する異性愛主義を反映したものであることなど、常識のなかに潜む差別と偏見を著者たちはあぶりだす。歴史は無数の抵抗と努力によってつくられる。偏見に満ちた視線を同性愛に向けてきた科学の歴史に関心のある人は、牧村朝子『「同性愛」は病気なの?』、サイモン・ルベイ『クィア・サイエンス』もあわせて読まれたい。

(4)『レズビアン・アイデンティティーズ』 堀江有里 著 
▶ISBN:9784903127224
▶署名:レズビアン・アイデンティティーズ
▶著者:堀江有里
▶出版社:洛北出版
▶本体価格:2,400円
「レズビアンなんかいない」 ー 男を基準に性が語られ、女が性の主体であることが認められない社会では、女が性について語ることじたいが抑圧され、女どうしの親密さや愛はつねに過小評価され、声をあげたとしても、男のためのポルノの対象としてインランな女として歪められたイメージによって塗りつぶされ、見えない存在にされる。レズビアンたちは、女たちのあいだでも、同性愛者たちのあいだでも、異性愛主義と男性中心主義の二重の抑圧によって、不可視のままだ。『「レズビアン」である、ということ』を著した掛札悠子の問いに応答して、著者もまたレズビアンの名を引き受け、その生きがたさへの怒りに根ざしたアイデンティティの可能性を再考する。著者は、近年の口当たりのいい「ダイバーシティ政策」が、格差や不平等を生み出す構造を不問にしたまま既存制度へマイノリティの同化を促すことに警告を発し、異性愛規範や男性支配に抵抗する意義を問う。同性間パートナーシップの法的保護についても課題は残る。欧米など諸外国では、人権を剥奪されてきた同性愛者たちの公民権獲得のなかで、異性間にのみ婚姻の権利を付与する不平等是正に向けて同性婚が議論されてきた。日本では婚姻の前提となる戸籍制度が、女性、被差別部落、婚外子、外国人に対する差別への温床となっていることをどう考えるのか。数少ないレズビアン研究の書であり、LGBTsの大学生にもぜひ読んでほしい。

(5)『セックスワーク・スタディーズ』 SWASH 著
▶ISBN:9784535587243
▶署名:セックスワーク・スタディーズ
▶著者:SWASH
▶出版社:日本評論社
▶本体価格:1,900円
性風俗と聞いて、AV出演強要やJKビジネスの標的となる「かわいそうな女の子」に対して胸をいためるひとはいても、性的サービスの提供を仕事とする多様なひとたちからなるセックスワーカーの健康と権利に思いをめぐらせるひとは稀だろう。また、性的指向と性自認の多様性をあつかう本に並んで、なぜこの本が?と疑問に思ったひともいるかもしれない。SWASHは、セックスワーカーが身体的・精神的・社会的に健康かつ安全に働くこと、辞めることをめざして活動する団体。同性愛の歴史と同様、セックスワークは差別、病理化、犯罪化の道をたどり、国家形成の過程のなかで家庭内の性とは区別される家庭外の性として管理の対象となり、ワーカーたちは労働者としての権利を侵害されてきた。ワーカーのなかには、性的指向と性自認が典型的ではないLGBTのひとたちも含まれる。本書が示すように、これまで「貧困」「性の商品化」という社会問題を投影するかたちで、セックスワーカーを「対象」とする調査や研究はあっても、セックスワーカーが問いの「主体」となって研究がすすめられることはなかった。他の職業と同じように、セックスワーカーたちが搾取や暴力にさらされず、当事者として状況を理解し意味づけ、性感染症に脅かされず安全に働くために、当事者・支援者・研究者が研究の基礎をきずく革命の書。当事者中心の研究とはどうあるべきかを考えさせられる本だ。

▼ 2019年5月の担当教員 ▼
ほんま なほ先生
ほんま なほ先生プロフィール
COデザインセンター准教授
文学研究科兼任。同センターにて、ひととひととがつながるための新しい大学・大学院教育プログラム創成に従事。臨床哲学を軸に、哲学相談、対話、こどものてつがく、フェミニズム哲学、身体・音楽表現などに関する実践的な教育研究を行う。著書に『ドキュメント臨床哲学』、『哲学カフェのつくりかた』、『こどものてつがく』(共編著)ほか、『アートミーツケア叢書』を監修。


● Coop Internship Program