つながる元気、ときめきキャンパス。大阪大学生活協同組合
<教員>10月のおすすめ本
★おすすめ本★ 書評


ISBN: 9784101259611
書名: 楽園のカンヴァス
著者: 原田マハ
出版社: 新潮社
本体価格: 670円

(1)『楽園のカンヴァス』 原田マハ 著

 海外に出かける楽しみの一つに美術館巡りがあります。モダン・アートの殿堂と言われるニューヨーク近代美術館を訪れた時、吸い寄せられた作品にアンリ・ルソーの「夢」があったことを思い出しました。『楽園のカンヴァス』は美術作品をめぐるミステリーです。主人公は織絵。織絵は、アメリカで生まれ、パリで美術史を学んで博士号を取得。学会から注目される存在でしたが、シングルマザーとなって日本に戻り、アカデミズムの世界からも離れて倉敷の大原美術館で「監視員」として勤める日々を送っていました。そんなある日。
 「ごとり、と鈍い音が響く。これはなんの音だ。ああ、そうだ、蓋の開く音だ。日本へ舞い戻り、真絵が生まれて、かれこれ十六年ものあいだ、重く固く閉じられていた「パンドラの箱」。いま、その蓋が開けられたのだ」
 こうして物語は始まります。テーマは「情熱」。アートへの断ち難い想いを封印した織絵が人生を生き直す決意をする姿に感動することと思います。伴走するのは、ニューヨーク近代美術館チーフキュレーターのティム・ブラウン。読後には、表紙の絵画が違って見えてくるでしょう。




ISBN: 9784480036285
書名: 遠い朝の本たち
著者: 須賀敦子
出版社: ちくま文庫
本体価格: 580円

(2)『遠い朝の本たち』 須賀敦子 著

 女は結婚し、家に入ることが当たり前だった1950年代、そして、まだ日本人が海外にいくことが特別だった時代に、須賀さんは24歳でパリへ留学。イタリア生活を経て、1990年、61歳の時に『ミラノ 霧の風景』というエッセイ集を発表。生前に出版されたエッセイ集はわずか数冊ながら、後年、全集が編まれるなど、凛とした文章の魅力は色褪せることがありません。
 本書のなかの「クレールという女」。須賀さんは、大学院生の頃に、同級生たちと夢中になった『人間のしるし』を再び読み解きながら、まだ若かった自分たちのことを振り返ります。フランスの作家クロード・モルガンによって書かれた『人間のしるし』は、第二次世界大戦下のフランスの抵抗運動がモチーフ。抵抗運動に身を投じる、自らの信念を持った女性・クレールと、そのよき理解者ながら命を落としてしまうジャック、そしてクレールの夫のジャン。
 40年の時を経て『人間のしるし』と出会い直した須賀さんはこう考えます。生き急いで死んだジャックはひとつの思想でしかない。嫉妬や自己否定を経て、やがて愛することを学んでいくジャンこそ「本当に人生に参加した」人間なのだと。これが、深いよろこびや、どうにもならない挫折を経て、言葉が「はてしなく容易」ではなくなった壮年の須賀さんが出した答えでした。いつ読んでも、どこかに、その時の自分に必要な言葉がある、そんな本です。


 



ISBN: 9784062748155
書名: 苦海浄土
著者: 石牟礼道子
出版社: 講談社
本体価格: 690円

(3)『苦海浄土』 石牟礼道子 著

 池澤夏樹さん個人編集の世界文学全集に日本文学で唯一選ばれている作品です。バラ色の未来を打ち上げる大阪万博開催は1970年。石牟礼道子が水俣病患者に寄り添い、体の中に水銀を溜めざるを得なかった苦痛を訴える『苦海浄土 わが水俣病』を出版したのはその前年のこと。「生まれてこの方、一語も発せず、一語もききわけぬ十三歳なのだ。
 両方の手の親指を同時に口に含み、絶えまなくおしゃぶりし、のこりの指と掌を、ひらひら、ひらひら、魚のひれのように動かすだけが、この少年の、すべての生存表現である」
この時、石牟礼さんは本も出したことのない家庭を持つ一人の女性でした。
 「わけても魚どんが美しか。海の底の景色も陸の上とおんなじに、春も秋も夏も冬もあっとばい。うちゃ、きっと海の底には竜宮のあるとおもうとる」土着の水俣方言が重層低音のように響きながら、自然界と人間の関係性を深く問う奇跡のような作品。石牟礼さんはこう言っています。「今は役に立つとか、効率がいいとか、そういうことが優先されます。
でも当時の村(水俣)のお年寄りが大切にしたのは、そんなことではなく、その人の魂でした。お年寄りから 「この子は魂の深かぞ」と言われるのが、子供たちへの最高のほめ言葉でした」




ISBN: 9784166610624
書名: 働く女子の運命
著者: 浜口桂一郎
出版社: 文藝春秋
本体価格: 780円

(4)『働く女子の運命』 浜口桂一郎 著

 唐突ですが、「マミートラック」という言葉を知っていますか?バリバリ働いていた女性が出産・育児休業を経て責任の軽い仕事に変わり、キャリアアップの道から外れてしまう現象のことを言います。子育て期の忙しい女性に配慮した結果であるものの、新たな仕事のチャンスを掴むことができず、仕事への意欲そのものを削がれてしまうのも事実。働きたいと思ったが、こんな働き方ではなかった、と立ちすくんでいるのが女性の現実でしょう。日本では、職場における女性の地位は低迷したままです。なぜ、こんなにも働きにくいのでしょうか?これは女性だけの問題?女性の働き方の歴史的変遷を辿りながら、現在の状況が俯瞰できる本です。
 タイトルの「運命」という言葉に違和感を感じるかもしれません。著者は、それほど働き方を変えるのは難しいことなのだ、というメッセージを込めたそうです。タイトルだけで敬遠せず、女性のみならず男性にも読んでほしい本です。




ISBN: 9784004316275
書名: 読んじゃいなよ!
著者: 高橋源一郎
出版社: 岩波書店
本体価格: 980円

(5)『読んじゃいなよ!』 高橋源一郎 著

 岩波新書にしては変わったタイトルの本です。明治学院大学の高橋源一郎先生と、「本には興味があるけれど、実際には本なんか読んだことがなかった」ゼミ生たちが、とことん読んでみようと選びに選び抜いた3冊の新書。その『哲学の使い方』、『憲法とは何か』、『女の一生』の著者である、鷲田清一、長谷部恭男、伊藤比呂美氏を招いての臨場感溢れる特別教室が収録されています。まっさらな気持ちになっていろいろな角度から物事を考えることが大切だと感じさせられます。どれも素晴らしいのですが、伊藤さんがこんなことを言っています。「つまらないところからみつけていくっていう努力は人生の上でも有効だと思う。これもつまらない。あれもつまらない。こいつもつまらない。あいつもつまらない。でもその中の何かは心にひっかかる。あ、もう少し知りたいなと思う。それで近づく」とても元気がでてきました。
 5冊の本の中に心にひっかかる本はあったでしょうか?みなさんのそれぞれの「今」にピッタリな本が1冊でもあったら嬉しいです。



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▼ 2017年10月の担当教員 ▼
工藤眞由美先生


工藤 眞由美(くどう まゆみ)先生プロフィール

1974 年東京大学人文科学研究科言語学専攻修了。
1999 年大阪大学文学研究科修了( 文学博士) 後、横浜国立大学助教授、大阪大学文学研究科教授などを経て、現在は大阪大学理事・副学長。
大阪大学生活協同組合 TEL:06-6841-3326(代)